Museum Blog


ブランクーシ 本質を象る


ルーマニア出身の彫刻家、コンスタンティン・ブランクーシの彫刻を中心とした作品展。

ポスターにも起用されている初期の直彫り作品『接吻』に惹かれて行ってみました。

 

ブランクーシは、美術学校を卒業後、オーギュスト・ロダンから高く評価され、ロダンの工房で下彫り工として働いていました。しかし、徹底した分業制の工房に違和感を感じたのかすぐに辞めて、石の塊からフォルムを彫り出す直彫りの技法を編み出し制作するようになります。

 

初期の水平に置かれた卵形の頭部作品『眠れるミューズ』なども、表面に具象をとどめつつ思念をイメージさせるような空気感がありとても魅力的でした。

 

その後抽象化をさらに高めて制作したブロンズ作品は、ピカピカに磨かれ、フォルムそのものにパワーがみなぎっていて周辺の空気すら張りつめているようでした。そのカタチを探し当てるまでのブランクーシの集中力と苦悩を物語っているようで、近寄りがたい雰囲気でした。

 

アイヌの建築と工芸の世界

 

チセ(家屋)でカムイ(神)に祈りを捧げ、自然と共生した生活を送っていたアイヌ文化を紹介する展示会です。

アイヌの生活には、チセの建材はもちろん、儀礼具、道具の素材などに様々な植物が多く用いられていました。マキリ(小刀)で木彫文様を刻み、樹皮からつくった糸で布を織り、刺繍をしてアットゥㇱ(樹皮衣)をつくります。

植物もカムイが人間のために用意してくれたものと考えられ、その植物それぞれもカムイであり、必要な時に必要な分だけ感謝して用いていたそうです。

現代の作り手によるアットゥㇱの製造工程も動画で紹介され、長い歴史と自然の中で伝承されてきた技術と、自然と共生するアイヌ文化の豊かさを感じることができました。

奈良美智: The Beginning Place ここから

 

青森県立美術館で開催された、世界的に活躍する青森出身の美術家・奈良美智の個展。

 

奈良さんが繰り返し描いてきたモチーフ「鋭い眼差しの女の子」の変遷を、絵画やドローイングで追うことができました。とくに最近制作された《Midnight Tears》という大きな絵画は、その大きさと色彩表現の豊かさに魅了され、世界の戦地の子どもたちについて考えざるをえないような圧倒的パワーを放っていました。

 

青森県立美術館でしか見られない高さ6メートルを超える野外彫刻『あおもり犬』も、細雪が降る中しっかりとそこに存在していました。どこか哀しげな、しかし大地から湧き上がってきているような様子は、厳しい気候の中たくましく生きる青森の人々にも重なりました。

 

自身のアトリエを再現した《My Drawing Room》や、高校時代に通い詰めたというロック喫茶「33 1/3」の再現もとても良かったです。美術館自体も広々としていて居心地の良い充実した時間を過ごせました。

 

HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美

 

1806(文化3)年創業、和紙及び紙製品販売の「日本橋 榛原」。明治~昭和期にかけて製作された和紙製品や、考案された図案の数々を紹介する展覧会です。

 

浮世絵師であり日本画家の河鍋暁斎など、当時を代表する画家たちが手がけた千代紙やうちわ、美しい絵柄の便箋や封筒、ぽち袋など貴重な品々が紹介されています。特に竹久夢二が手がけたものは、情緒的でみずみずしく魅力的な図案と色彩でした。

 

当時の人々にとって、上質な和紙製品は身近な美術愛好品だったと思われます。現代に至るまで長きに渡り人々に愛された、良質な和紙の魅力を味わえました。

 

もじ イメージ Graphic 展

 

1990年代以降のグラフィックデザインを中心に、日本語の文字とデザインの歴史をひもとく21_21 DESIGN SIGHTギャラリーで開催中の展覧会。

 

日本語は、漢字、ひらがな、カタカナ、縦組横組、ルビといった独特の表現方法をもつ複雑で豊かな言語。膨大な情報量を処理することを求められるDTPの時代になりフォントも多様化。携帯電話発祥の絵文字「EMOJI」も生み出されました。その文字とイメージの混ざり合いのなかで、グラフィック表現がさまざまな形に発展してきた様子を紹介しています。

 

石版文字を素材にして夏目漱石が自ら装丁した『心』の初版本から、昔の絵巻物のように絵の中に文章が食い込んでいるような現代のマンガ表現、視認性ギリギリの文字を使用したポスターなど、視覚伝達の迷宮に入り込んだようでした。

 

今後、仮想空間なども加わってさらにグローバルな表現になっていくのだと思いますが、結局、伝えたかったことが伝えたかった相手に届かなければ、ただの表現遊びになってしまうなと感じました。